送らんことを心がけているものであるが、その他に自分はまたできるだけ多くの個々の人々に、できるだけしみじみと触れ合うことを願わずにはいられない。また願うことを義務と信じているものである。しかしこの最後の願いは自分にはじつに僅かしか満たされることはできない。そこに人間の限り、地の約束というものがじつに痛切に感じられてくる。自分は自分の創作的欲望の十分の一ほども満たすことのできない微弱な肉体的精力を持った芸術家である。自分のごとく作品の少ない芸術家は稀であろうと思う。自分はそのほんの僅かな仕事と、その仕事に欠くべからざるじつに少しの読書とですべての精力を費してぐったり[#「ぐったり」に傍点]してしまう。それだけさえも健康を傷つけることなくしてはできないのである。しかもそれだけさえもできない日の方が多いのである。その他の時間をもって自分は自分の第三の奉仕をしなければならない。その結果は自然の数として個々の人々に対する奉仕の粗略ということにならずにはおかない。しかもそれは自分が最も好まないことなのである。自分はせめて訪ねてくれる人々としみじみと語り、手紙をくださる人に行き届いた返事を出すことだけ
前へ 次へ
全394ページ中383ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
倉田 百三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング