「だ。そしてその結果は自他ともに傷ついたのである。その惨《みじ》めな結果はその公けの動機に対していかにしても不合理な気がして私は天地を呪《のろ》いかけたほどであった。しかし私はそのとき初めて地上の運命と、それに対する知恵とに目醒めたのであった。私は今でもそのときの私の願いをそれ自身悪いものと思われない。もしこの世が天国であったなら、善の法則に対抗する悪の法則が無いならば、知恵なき無邪気のままで、すべての純な願いはことごとく容れらるべきである。求むる心はただちに与うる心に、愛は必ず感謝に出遇うべきである。また他人を不幸にするような不調和な願いは生じないはずである。私は今でも、きわめて現実的な気持ちでかかる国をあこがれる。しかし地上には人間に負わされたる運命がある。私はそれを知らなかった。私は今ではただ他人に呼びかけたいから呼びかけるのは浅いことを知っている。他人に無用意で働きかけたことを後悔している。それは自他の運命を損うたからだ。それはじつに私の罪――過失であった。そういうことを許して貰えるなら。しかし過失もその報いから免れることはできない。見よ私も、友も、彼女も、妹も、みなその報いを
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