烽フであることを承認せしめよ。この承認はすべての愛《め》でたき徳を生む母である。しこうしてつくられたるものの切なる願いは、造り主の完《まった》さに似るまでおのれをよくせんとの祈りである。
[#地から2字上げ](一九一六・一〇・一)
[#改ページ]
他人に働きかける心持ちの根拠について
人間には他の人間の群れに対《むか》って呼びかけたい願いがある。いま私はそのねがいが熱と潤いとを帯びて心のなかに高まるのを感ずる。私は話しかけたい。私はその願いを人間らしい、純なものとは知っていた。けれど私にはその願いを行為に移す路筋《みちすじ》で心のなかに深い支障があった。私は永い間黙ってこらえてきた。そのために魘《うな》されるような気がしながら。
私は私の師からも大衆に向かって話しかけることを誡《いまし》められている。それは今の私の器量では他人に働きかけるのは他人を傷つけることだという道徳的の理由からである。私は師の心を察して涙ぐむ。しかしそれにもかかわらず、私は今これから他人に向けて働きかけようとしているのだ。私は今の世の多くの人々が私に話しかける心持ちの根拠の説明を迫るほど、他人の運命を畏
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