B
マリアのようにやさしく、マルタのように面倒を忍んで、多くの患者を看護してやってください。祝福あれ!
[#地から2字上げ](一九一五・一一)
[#改ページ]
善くなろうとする祈り
我建超世願、必至無上道、斯願不満足、誓不取正覚 ――無量寿経――
私は私の心の内に善と悪とを感別する力の存在することを信ずる。それはいまだ茫漠《ぼうばく》として明らかな形を成してはいないけれど、たしかに存在している。私はこの力の存在の肯定から出発する。私はこの善と悪とに感じる力を人間の心に宿る最も尊きものと認め、そしてこの素質をさながら美しき宝石のごとくにめで慈《いつく》しむ。私は私がそのなかに棲《す》んでいるこのエゴイスチッシュな、荒々しい、そして浅い現代の潮流から犯されないように守りつつ、この素質を育てている。私はしみじみと中世を慕う心地がする。そこには近代などに見いだされない、美しい宗教的気分がこめていた。人はもっと品高く、善悪に対する感受性ははるかにデリケートであったように見ゆる。近代ほど罪の意識の鈍くなった時代は無い。女の皮膚の感触の味を感じ分ける能力は、驚くほど繊細に発達し
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