サれはあなたの宝です。私はそれに干渉するのは傲慢でしょう。けれど思えば私は自信がなさすぎます。私は自分の清くない、徳の足りないことを思うときには、むしろあなたを神様に任して、私はあなたに別れてしまおうかと思うことも一度や二度ではないのです。けれど一度運命が触れ合うてこれほどの交わりになったものをアーチフィシアルに蹂躙《じゅうりん》するのは最も悪いことと思われます。一度触れ合うた人間と人間とはたといいかに嫌い合っても、絶交してはならないとさえ常に思っているのです。私はあなたにそのように思われるのはいやどころではありません。感謝と涙とです。私も私の心のなかに頭をもたげる心の芽をいたずらにみずから蹂躙するいわれもないのです。純な、人間らしい善い芽はのばさなければなりません。あなたに卑しいことを知らせずにすませるために私はあなたをずるい男の手に渡さずに、私のそばに置きたい気さえ起こることもときどきあるのです。知らないうちはともかくも、純な美しいものがみすみす荒くれ男にふみにじられるのを見のがすことは堪えがたい苦痛です。
けれどいかなる場合でも私たちは神様を畏れなければなりません。それには二種
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