ノ、くどいほど隣人の愛のみ真の愛であることを、あなたにあれほど話したのに。私は昨日は眠らずに考え明かしました。あの霜の白く置いている冷たい草の上で私の病気の早く癒えるようにと、その昔あのラザロを蘇《よみがえ》らしたまいしキリストに熱い祈りを捧げてくださったと聞いて私は深く動かされずにいられません。なんといって感謝したらいいのでしょう。けれども私はもはや三年昔の私ではありません。私は私の発情に溺《おぼ》れてはなりません。私は今あなたの運命を傷つけないように、知恵のはたらきを呼び起こさなくてはならないときであると信じます。
 私はけっしてあなたが嫌ではありません。けれども私は恋というものを(たびたび申し上げたように)あまりこのましく思わないようになっているのです。美しい恋を仕遂げることはなかなかたやすいことではありません。恋は特別に悪魔に嫉《ねた》まれます。悪魔はそのなかに陥穽《かんせい》をつくります。そしてもはや二人の間に平和や明るい喜びはなくなってしまうものです。
 恋というものはあなたの心に描いていらっしゃるような美しいものではありません。その上私にはご存じのごとく悪い病気があります
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