盾狽狽潤@を決めていたのですから。けれど一度口をきると私は何もかも申しました。後には激昂して、恨みも、怒りも、かなしみも、――ああ私はこの三年間の私のふしあわせとそして今の淋しい境遇にある自分の姿を思うときに、それがみなあの私を捨てた女ひとりのせいであるかのように感じられました。そして私はなんという愚かでしょう。それをあなたに向けて訴えるとは! 私はセンチメンタルになってしまってあなたの手のなかに泣きました。――それが不謹慎だったのです。純な、信じやすい、やさしい女に、自分を崇拝しかけている女に、失恋の話をする、――そのようなことが、慎み深い人のすることでないくらいなことは、十分に知っていたのでしたのに、私はそれをいたしました。そしてあなたは私に恋心を起こしました。お絹さん、どうぞ赦してください。私はけっしてミスチーヴァスな心で(このような心持ちはあなたにはいっても解《わか》らないかもしれません)したのではありません。まったくあなたがあまりおやさしく、私があの夜はセンチメンタルになっていたので、あなたに私の不幸を訴えたのでした。恋になってはならないと私はつねに注意していたのに、そのため
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