ヤではありません。私は清かったのです。けれど女に欺《だま》されてから、いつしか女に対する心の清さを失いました。そして Dirne のような女を見ると、私はずるい男心を呼び起こされます。そしてそれを当然のことと思うように馴《な》らされそうですから、私は厳しく自分を叱《しか》りつけているのです。
 けれどあなたのような純な、まじめな、女らしい人にあえば、私の心の底の善い素質が呼び醒《さ》まされます。そうです! 私は気を注《つ》けねばなりません。あなたはどう思ってくださいます? 私はこのような手紙を書かせるようにあなたにしむけたのでしょうか。私はそうしてはならないと、いつもいつも思っていました。
 けれど私は神様が私を罪ありとなさっても争おうとは思いません。私は判断がつきかねます。もし私が悪いことをしたのなら、神様に赦《ゆる》しを乞わねばなりません。フランシスさんがあなたを見舞いに遣わしてくだすって、あなたとちかづきになってから、私はたしかに慰められました。そのときまで百余日の長い間、私はじつに侘《わび》しい、淋しい日を送っていたのでした。私は孤独というものを人間の純なる願いとは思いません。
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