A自他ともにその霊魂の平静と純潔とを保たんための隠遁は謙虚な魂のおのずから求むる許さるべき生活法ではないであろうか。あたかも暗の光を恥ずるがごとくに醜き自己を隠したい気がする。そのときしみじみと静かな Refuge を求めたい気がするのである。自分はこれまであまりに人の心の扉をたたきすぎた。あまりに人の内面に立ち入りすぎた。それは純なる動機からであっても人の心を不安にし、本能的にその扉を閉じしめないではおかなかった。自分たちは他人がアクセプトしないのに愛の表現をしいることは押しつけがましき不作法である。山に隠れて雲霞を友として生きている仙人を無用意に驚かすことは心なき業《わざ》である。あるいはデリケートな傷つきやすい心を持ったもしくは「人見する」子供のごとき霊魂を持てる人をふいに訪れることは思慮ある行ないではあるまい。まして庵に籠《こも》り、戸を閉じ、幽《かす》かな燈火をかかげて、ただ自らの心に秘めたる思い出を回向《えこう》するために香を焚《た》いている尼姫をたとい純粋な愛の動機からとはいえしいて訪れてその秘密を打ち明けさせようとあえてするがごときは最も愚かな行ないであろう。孤独を欲す
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