、を理解しないときにはほとんど不可能といってもいい。このことは自分に家から離れたい願いを起こさせないではおかない。自分は家から離れて住み、隣人としての感じが沁み出るだけの距離を保つ必要を感ずるのである。
しかしながら自分が離れて住みたいのは自分の骨肉からばかりでなく、また自分の隣人からも自分の姿を隠したい気がしみじみとするのである。第一に愛乏しく、神経質で、裁きやすい自分は人と交わっているときに自分の態度がまるで心の有様と一致しないアーチフィシアルな気がしてならない。自分は今ああいった。けれど心はその反対である。またいらっしゃいといった。しかしじつは送り出してほっとしたのではないか。私の思っているとおりは「あのような人とは交わりたくない。なるべく来てくれなければいいのに」である。けれど面と向かってはそのとおりをいえるものではない。もしいえば人の心を傷つける心なき業《わざ》である。その気まずさに耐えないばかりでなく、自分はそれを正直と感じるよりも不作法と感ずる。しかしながらときとしていかにも自分のいってることや態度が空々しい気がして耐えがたいことがある。元来自分は他人に対して要求が強い
前へ
次へ
全394ページ中218ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
倉田 百三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング