ゥかる静かな気持ちを乱さないで保ちたいと願う者である。自分はなるべく町へ出ずまた自分の父母の家へさえも帰ることをでき得るだけ避けたい。自分は自分が人懐かしくなって町の燈火の方へ足の向こうとするときにはそれを愚かな誘惑として退ける。そして父母を省みない心苦しさもあえて忍んで家からも離れて暮らしたい。自分は家からも遁《のが》れたい心をしみじみと感じる。その心はだんだん深くかつコンスタントなものになってゆく。トルストイが妻子を離れようとした心のなかや、昔から聖者たちが出家しなければならなかった心の歩みがしみじみと同感せられることがある。自分は隣人としての愛をもって人と人との繋がりの基としている者である。自分の父母はチピカルな世の中の「親」である。そして自分は「一人息子」である。小さいときから両親の恩愛を一身に集めている。他人は皆自分の親を甘すぎるといって非難するほど自分を傾愛してくれる。自分は小さいときからの思い出を辿《たど》ってみれば、いかに両親が自分を愛していてくれるかがよくわかる。自分はわがままな上に、病身でどれほど両親に苦労をかけたかわからない。しかも両親は少しも自分を悪く思わないで
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