lから惨めに裏切られたときに、自分はその苦痛のただ中においてまた、自分がそのようにも信頼していた友に対する期待からも同時に裏切られた。そして混乱と、動揺と、悲恨との間につくづくと人間の愛の頼みがたきことを感じた。そのときから自分はミスアンスロフィックな感情と、隠遁の心持ちとを心の底に抱かないではいられなくなりだした。自分があれほどまでに他人の愛を懇願し、そのためには飢えたもののような、もの欲しそうな――それはすでに憐れさもしくははなはだしきは醜さの感じを呈するほどまでに、露骨にかつ哀訴的な態度を取ることさえもあえてし、しかもかくまでしてようやく贏《か》ち得たる愛を一年も経ぬ間に世にも惨めに失い、加うるにそのために一生の運命に決定的契機を与えるほどの大きな犠牲を払ったことを思えば思うほど、自分の運命がいたましく、自分の無知が悔いられ、いまいましく、腹立たしくならないではいられない。他人に対するある反感と、人生に対する一種の厭忌の情を抱かないではいられない。そしてその深い深い傷と悲しみとを他人に訴える気がしないだけに、独り暗い部屋の隅に隠れ、あるいは淋しき野を歩いて、考えながら泣きたい心地
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