ェする。孤独というもののなかにある深い深い味わいと、淋しき心にのみ受けられる自然のいたわるような慰めとが何よりも懐かしい心地がする。自分が人間の愛を求めていたときにはあれほどまでに冷淡に見えた自然が、自分が人間の愛を断念してからはどうしてこれほどまでに親しい、甘いものとなったのか不思議な心地がする。自分は誰にも愛を求めず、自分自身のなかに閉じ籠《こも》るときに最も安らかな心地がする。何者からも侵されない平和と、何者にも負わない自由とを尊ばずにはいられない。そこには自分自身の天地、世界がある。その世界においては自分が主であり、王である。また庵主であり、燈台守である。自分は他人にデペンドする生活の不安と、脆《もろ》さとを痛感した。これからは自分自身の上に生活を築かなければならない。他の何者かに依属して初めて充足する生活であるならば、絶えず他の者の向背によって動揺しなければならない。他の者の意嚮《いこう》を顧眄《こべん》しなければならない。それは今の自分のもはや堪え得るところではない。自分は自分のみに完成し、飽和する生活を建てたい。それこそ真に確実にして、安定せる生活である。自分は故郷のある
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