ホ石と石とでも作用する。ただ愛という心の働きのみ生命と生命とを本質的に結びつける。その他は何ものも、才能も、仕事も、趣味も、人と人とを結びつけない。私はいかに偉大なる仕事を作り上げてもそれだけではまだ他人と何の関係も付せられてはいない。愛したときにのみ本質と本質との関係が生まれる。私は何よりも愛したい。骨肉や恋のためでなく、隣人のために自己を献げたるキリストは、思えば尊き私の師である。「芸術は個人の表現に始まって個人の表現に終わる」という人もある。けれど私は共存の意識に始まる芸術を求める。自分の生きていることを感ずるときに同時に他人もともに生きていることを感ずる。この二つをば別々に二度に感ぜずに、一度に共存の意識として感ずることができるのではあるまいか。すなわち自己の血の中に他人を融かして感ずることのできる芸術家にはその個性の表現は普遍的な意味を備え得るのである。個性は他人の存在を含み得るものである。個性は一般性の限定されたるものである。そのなかには他生の要素が含まれている。自己と他人とを峻別し、まず自己の存在を意識してしかる後に自己と全く無関係なる他人の存在を認めるのではなくして、自
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