蛯ネる、より美しきものが創り出されるにせよ、それはこの殺生の内面的動機となんらの関係もない別事である。毒殺しようとして飲ましたモルヒネがかえって病気を癒したのと同じ別事である。それは一つの経済的見方であって道徳とは何の関係もない。生命物と生命物との関係は相互を祝福し合うときにのみ善である。他の生命を否定せんとし、これに呪いを送るように働きかけることは絶対に悪である。生物が共食いしなければ生きてゆかれないことはいかに考えればいいであろうか。今のところ詮方《せんかた》もなき不調和である。けれども私は世界は調和ある一つの全体であると信ぜずにはいられない。私はまだ失望しない。なんとかして調和ある世界として感じ得るようになるまで努力してゆきたい。すなわちこの不調和を調和と観じ得るまで意識を深め高めてゆきたい。生命と生命との従属を感じ、聖フランシスがすべての被造物を兄弟姉妹と感じたように、すべての生命を隣人として認め愛で繋《つな》がり合い、しこうして後に一つの大いなるものを創造せんとする共同働作(collaboration)にあずかりたい。愛なくば人と人とは何の関係もない。単に互いに作用するのなら
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