ウれない苦しさに悶えるばかりである。
私は初めから小説などに描かれた恋愛に同感できるのはほとんど無かった。『死の勝利』のジョルジオにも、『煤烟』の要吉にも、『烟』のリトヒノフにも同感できなかった。ジョルジオの恋は性愛の最もエゴイスチックなものである。また私は恋を失うて女を罵《ののし》り、女性全体に一種の反抗的気分を抱くようなことはしたくない。かくのごときことは単に深き失恋の悲哀を味わいたるものにはできることではない。またリトヒノフのごとく自己の恋をも烟のごとくずるずるに消してしまいたくない。私は自己の恋愛を熟視し、自己の真相に徹して、愛をして人格的に推移するところに赴《おもむ》かせたい。人格の連続性を失いたくない。恋を超越した道、冷笑した道は私の今後歩むべき道ではない。恋を失うたものの、恋の内より発する道こそ私の歩むべき公道である。それはいかに荒れた色彩に乏しいものにしても私が血と涙とをもって拓《ひら》きし大切な道である。私をどこか私に適した世界に導いてくれるであろう。それがいかなる世界であるか、いま非常なる複雑と多様との中に陥れる私には予測できない。しかし私は私の恋愛を批判して、恋
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