ヲ《かつ》て世に知られなかつた仕方に於て罪|及《および》苦悩を美しき神聖なる者となした。(善の研究――四の四)
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といってる。あなたの宗教には肉の匂いと煩悩の痕《あと》と疑惑の影とがない。人間味が乏しい。あなたの善はあまりに狭くして固定している。流動の趣きと野生の姿がない。それというのもあなたの生活意識が常識的であって深刻と透徹とを欠くからであると思う。たとえばあなたは本校に来て友情の美しいのを感じ真友の二、三人もできたといわれるが、私から見ればこれらはあなたの生活意識の深刻と透徹とを欠いでる証拠だと思う。人と人との接触を今少し深刻に要求してみたまえ。そんな楽天的なことをいってはいられないことはないか。私は校内においてしみじみと孤独を感じるものである。私は理解していてくれる友は一人もない。軽《かろ》き接触の表面が潤うて少しじとじとすれば、それに美しき友情の名を被らせるのであるか。私には真友と名づけ得べきほどの友がただ一人ある。それは校友ではない。思うにあなたなどは、あなたのいわゆる二、三人の真友との間の友情そのものに関しては寂寞も苦悶もないのであろう。しかし
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