いちゃくしゃ》にはなりたくてたまらぬのだが、それには欠くべからざる根本信念がこの幾年目を皿のごとくにして探し回ってるのにまだ捕捉できない。といって冷たい人生の傍観者になんでなれよう。この境に彷徨《ほうこう》する私の胸にはやるせのない不安と寂愁とが絶えず襲うてくる。前者は白幕に映ずる幻燈絵の消えやすきに感ずるおぼつかなさであり、後者は痲痺《まひ》せし掌の握れど握れど手応《てごた》え無きに覚ゆる淋しさである。ときどきこんな声が大なる権威を帯びて響きくることがある。

「はかない人知で何を解こうとしてるのだ。幾年かかれば解けるのだ。それを解決してからがおまえの意義ある生活ならばそれは危いものだ。初めから意義ある生活を打算してかからぬ方がましかもしれぬよ。疑惑の雲の中へ頭を突き込んでやがては雲の一部分に消え化してしまうのであろう」

 一度は恐れ戦《おのの》いてこの声にひれ伏した。が倨傲《きょごう》な心はぬっと頭を擡《もた》げる。
「いくら苦しくても、意義が不明でも、雲の中へ消え込んでも、その原因は私の意志どおりをやってきたからだ。世の中に思いどおりをやるほど好いことがあるものか。それに私はあ
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