もなささうに遊戯して暮らしてゐます。時々小さな声を立てて鳴きます。私は寝床に横になつて、そのさまを見てゐます。これだけが私の一日のなぐさみです。あはれんで下さい。私の心はどうしても不幸の意識から自由になることができません、やはり死に脅かされるのが一番原因になつてゐます。血の出る時の本能的な不安は実にいやなものです。私は死に身を任せる覚悟のできてゐない生活はたしかなものではないと思ひだしました。そして人間の幸福はやはり安息にあると思ひます。エピクロスなどの考へたのもそのやうな気持だつたのであらうと思ひます。様々の悲哀や心配の絶え間のない人生の終りに来る死、それをreliefのやうに、迎へることはできないものでしょうか。私は故郷の父のことなど思ふと、さうであつてほしいと切に思ひます。私は墓場の彼方に平和を希む生活を一番いいやうな気がします。やはり此の世は仮りの宿といふやうなテンポラルな気がします。トルストイやナポレオンは今どうしてるだらう。夏目さんや魚住さんは? と思ふと私は変な、淋しい気がしてなりません。今から百年経てば私らのうち一人も生きてる人間はゐないのですね。その癖此の世は私たちに
前へ
次へ
全4ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
倉田 百三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング