強い強い愛著を持たせるのですね。私は長生きができないのが情なくてなりません。そして死ぬる時の肉体的苦痛が今から気にかかります。私の初子が十日以内に生れる筈です。私は実際何と思つてこの子の誕生を迎へていいか自分に解りません。不思議といふ外はありません。生れた赤ん坊を見たら急にかはゆくなるのでしょうか。皆かはゆいと申しますから、私もさうなるのでしょう。男子ならば地三、女子ならば桑子と名をつけようと、お絹さんと相談しました。いまだ孵らぬ卵をかぞへるやうな愚かなことですけれど、天香さんが遥々私を見舞に来て下さるさうで、勿体なく思つてゐます。私は、四月中旬まで病院に居なくてはなりますまい、私の書物が出るのは五月初旬でしょう。まだ自分で書くと手がふるへて少し無理です。[#以下の文章は地付き]久保謙氏宛 三月十八日夜。中村病院より
底本:「日本の名随筆 99・哀」作品社
1991(平成3)年1月25日第1刷発行
1992(平成4)年5月25日第4刷発行
底本の親本:「新装・倉田百三選集 第一巻」春秋社
1976(昭和51)年10月
入力:渡邉 つよし
校正:門田 裕志
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