別木荘左衛門の同志であった。事あらわれて、一味徒党ことごとく捕えられた中に、内蔵丞一人だけは遁れ終わせ、姓名を筧求馬《かけいもとめ》と改め、江戸に侘住居をした。しかし大事をとって、当歳であった娘のお菊を、男子として育てた。というのは、幕府《おかみ》において、梶内蔵丞には娘二人ありと知っていたからであった。その菊弥も、官吏《かみやくにん》や世間の目を眩ますことは出来たが、土蔵破《むすめし》の綱五郎の目は欺むけず……
だんだん抵抗力《ちから》が弱って来た。
(何人《どなた》か……来て! 助けてエーッ)
そういう声も口からは出ない。
と、この時蔵の中が、仄かな光に照らされて来た。光は、次第に強くなって来た。蔵の奥に、二階へ通っている階段があり、その階段から光は下りて来た。段の一つ一つが、上の方から明るくなって来た。と、白布で包んだ人の足が、段の一つにあらわれた。つづいて、もう一方の足が、その次の段を踏んだ。これも白布につつまれている。
黒羽二重の着物を着、手も足も白布で包み、口にお篠の生首を銜え、片手に手燭を持った男が、燠のように赤い眼、ふくれ上った唇、額に瘤を持ち、頤に腐爛《くずれ
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