旧家があって、鸚鵡蔵という怪体《けったい》な土蔵があるとのこと、しめた! そういう土蔵《むすめ》の胎内にこそ、とんだ値打のある財宝《はららご》があるってものさ、こいつア割《あば》かずにゃアいられねえと、十日あまりこの辺りをウロツキ廻り、今夜念願遂げて肚ア立ち割り調べたところ、有った有った凄いような孕子があった。現在《いまどき》の小判から見りゃア、十層倍もする甲州大判の、一度の改鋳《ふきかえ》もしねえ奴がザクと有った。有難え頂戴と、北叟笑いをしているところへ、割いた口から今度は娘っ子が転がり込んで来た! 黄金《かね》に女、盆歳暮一緒! この夏ア景気がいいぞ!」
 グーッと綱五郎は抑え込んだ。
(無念!)と菊弥は、抑え付けられた下から刎返そう刎返そうと※[#「足へん+宛」、第3水準1−92−36]きながら、
(烈士、別木荘左衛門の一味、梶内蔵丞《かじくらのじょう》の娘の自分が、こんな盗賊に!)
 抑えられている口からは声が出ない! 足で床を蹴り、手を突張り、刎返そう刎返そうと反抗《あらが》った。
 そう、菊弥は娘なのであった。父は梶内蔵丞と云い、承応元年九月、徳川の天下を覆そうとした烈士、
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