た光景に、きっと眼を蔽うことだろうよ。


 僕は入口で金を払い、中へ入って一つの寝台へ上った。そうしてすぐ横|仆《た》わり、先ず煙燈《エント》へ火を点じ、それから煙千子《エンチェンズ》を取り上げた。それから煙筒《エンコ》に入れている液へ――つまり一回分の鴉片液なのだが、その中へ煙千子を入れ、鴉片液を煙千子の先へ着け、それを煙燈の火にかざした。つまり鴉片を煉り出したのだ。
 寝台は二人寝になっているのだ。寝台の三方は板壁で、一方だけが開いていて、そこには垂布《たれぎぬ》がかけてあるのだ。すなわち一つの独立した、小さい部屋を形成しているのさ。
 隣りの部屋も、その隣りの部屋も、その隣りの部屋もそうなっているのさ。
 どの部屋も客で一杯らしかった。
 何という奇怪なことなんだろう!
 政府が鴉片を輸入させまいとして――すなわち支那の人間に、鴉片を喫煙させまいとして、ほとんど一国の運命を賭して、世界の強大国|英吉利《イギリス》を相手に、大戦争をしているのに、肝心の支那の人間は、風馬牛視して鴉片を喫っている。鴉片窟はここばかりにあるのでなく、上海だけにも数十軒あり、その他上流や中流の家には、
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