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で僕は出発した。もう楊花は散り尽くしてしまい、梨の花が河の岸あたりに、少し黄味を帯びた白い色に、――それも日本の梨の花のような、あんな淡薄な色でなく、あんな薄手の姿でなく、モクモクと盛り上り団々と群れて、咲いているのを散見しながら、岸に添って僕達の船は上った。戎克《ジャンク》、筏、帆をかけた筏――その筏の上で豚を飼い、野菜を作り、子供を産むと、そう云われている筏船などが、僕達の船の傍《そば》を通った。
今にも鎮江が陥落しそうだとか、北京の清帝が蒙塵するらしいとか、戦争の噂は船中にあっても聞こえ、その噂はいつも支那側にとって、面白くないものだった。
船は江陰《チャンイン》で碇泊した。で、僕は上陸した。江陰にも英国兵が駐屯していて、戦争気分が漲っていたが、昔から風光明媚として、謡われるところだけに、家の構造《つくり》、庭園の布置に、僕を喜ばせるものがあり、終日町や郊外を、飽かず僕は見て廻った。夕方まで見て廻った。船は三日程碇泊するので、今夜は陸の旅館へ泊まろう、こう僕は最初からきめていた。
で、気持のよい旅館を探そう、こう思って町の方へ足を向けた。その時洋犬と支那美人とを連れた
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