の多数を、打尽して獄に投じたことなのだからね。
 が、まあそんなことはどうでもよいとして「鴉片を喫む美少年」の話をしよう。
 僕といえども鴉片を喫むのだ。他に楽しみがないのだからね。日本を離れて八年になる。△△三年×月□□日、釣りに品川沖へ出て行って、意外のしけ[#「しけ」に傍点]にぶつかって、舟が流れて外海へ出、一日漂流したところを、外国通いの外国船に救われ、その船が上海へ寄港した時、その船から下ろされて、そのまま今日に及んだんだからね。今の境遇では日本の国へ、いつ帰れるとも解《わか》らない。藩籍からも除かれたそうだし、何か国禁でも犯したかのように、幕府の有司などは誤解していると、君からの手紙にあったので、せっかく日本へ帰ったところで、面白いことがないばかりか、冷遇されるだろうから、帰国しようと思っていないのさ。
 しかし一日として日本のことを、思わない日はないのだよ。勿論妻も子供もないから、君侯のことや朋輩のことや――わけても君、吉田惣蔵君のことを、何事につけても思い出すのだがね。
 黄浦《ホアンプー》[#ルビの「ホアンプー」は底本では「ホアシプー」]河の岸に楊柳《ようりゅう》の花
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