北斎と幽霊
国枝史郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)家斉《いえなり》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)柳営|絵所《えどころ》

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   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#二の字点、1−2−22]
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        一

 文化年中のことであった。
 朝鮮の使節が来朝した。
 家斉《いえなり》将軍の思《おぼ》し召しによって当代の名家に屏風を描かせ朝鮮王に贈ることになった。
 柳営|絵所《えどころ》預りは法眼|狩野融川《かのうゆうせん》であったが、命に応じて屋敷に籠もり近江八景を揮毫《きごう》した。大事の仕事であったので、弟子達にも手伝わせず素描から設色まで融川一人で腕を揮《ふる》った。樹木家屋の遠近濃淡漁舟人馬の往来坐臥、皆狩野の規矩に準《のっと》り、一点の非の打ち所もない。
「ああ我ながらよく出来た」
 最後の金砂子《きんすなご》を蒔《ま》きおえた時融川は思わず呟《つぶや》いたが、つまりそれほどその八景は彼には満足に思われたの
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