うやら安心したらしい。
翌日阿部家から使者が来た。
「このまま殿様へお上げくだされ」
北斎は云い云い白木の箱を使者の前へ差し出した。
「かしこまりました」
と一礼して、使者はすぐに引き返して行った。
ここで物語は阿部家へ移る。
阿部家の夜は更けていた。
豊後守は居間にいた。たった今柳営のお勤め先から自宅へ帰ったところであってまだ装束を脱ぎもしない。
「北斎の絵が描けて参ったと? それは大変速かったの」
豊後守は満足そうに、こう云いながら手を延ばし、使者に立った侍臣金弥から、白木の箱を受け取った。
「どれ早速一見しようか。それにしても剛情をもって世に響いた北斎が、よくこう手早く描いてくれたものじゃ。使者の口上がよかったからであろうよ。ハハハハハ」
とご機嫌がよい。
まず箱の紐を解いた。つづいて封じ目を指で切った。それからポンと葢《ふた》をあけた。絵絹が巻かれてはいっている。
「金弥、燈火《あかり》を掻き立てい。……さて何を描いてくれたかな」
呟きながら絵絹を取り出し膝の前へそっと置いた。
「金弥、抑えい」
と命じて置いて、スルスルと絵絹を延べて来たが、延べ終えてじっ
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