治てやろうとな。で今夜も探していたのさ。ここで逢ったが百年目、さあ野郎観念しろ!」
云い捨て懐中へ手を入れると一尺ほどの円管《つつ》を出した。キリキリと螺施《ねじ》を捲く音がした。と、円管先から一道の火光が、煌々然と閃めき出た。
「眼が眩んだか、いい気味だ! エレキで作った無煙の火、アッハハハ驚いたか! 古風に云やア火遁《かとん》の術、このまま姿を隠したら、絶対に目つかる物じゃアねえ。……や、刀を抜きゃアがったな! さあ切って来い、来られめえ! おっ、浮雲《あぶね》え!」と鬼小僧は、突然円管先の光を消した。
光の後の二倍の闇、闇に紛れて逃げたものか、鬼小僧の姿は見えなかった。
8
深編笠の侍は、白刃《しらは》をダラリと下げたまま、茫然と往来へ立っていた。
「ここだここだ!」と呼ぶ声がした。一軒の家の屋根の上に、鬼小僧は立って笑っていた。
「やいやい侍|吃驚《びっくり》したか。だが驚くにゃアあたらねえ。飛燕の術というやつさ。日本の武道で云う時はな。……形学《けいがく》で云うと少し違う。物理の法則にちゃんとあるんだ。教えてやろう『槓桿《こうかん》の原理』そいつを応用したまでだ。…
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