「やあ本当だ、甘《あめ》え砂糖だ」
「べらぼうめエ、あたりめエよ。辛《かれ》え砂糖ってあるものか。……そこで砂糖を水へ入れる。と、出来るのは砂糖水。これじゃア一向くだらねえ。手品でも何でもありゃアしねえ。そこでグッと趣向を変え、素晴しい物を作ってみせる」
 パッと砂糖を投げ込んだ。と盃洗の水面から、一団の火焔が燃え立った。
 ドッと囃す見物の声、小銭がパラパラと投げられた。
 盃洗の水をザンブリと覆《あ》け、鬼小僧はひどく上機嫌、ニヤリニヤリと笑ったが、
「さあ今度は何にしよう? うんそうだ鳥芸がいい。まず鳥籠から出すことにしよう」
 キッと空を見上げたが、頭上には裸体《はだか》の大|公孫樹《いちょう》が、枝を参差《しんし》と差し出していた。
「おお太夫さん下りておいで。お客様方がお待ちかねだ」
 こう云って招くような手附をした。
 と、公孫樹の頂上《てっぺん》から、何やらスーッと下《お》りて来た。それは小さな鳥籠であった。誰が鳥籠を下ろしたんだろう? それでは高い公孫樹の梢に、鬼小僧の仲間でもいるのだろうか? それに洵《まこと》に不思議なのは鳥籠を支えている縄がない。鳥籠は宙にうい
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