貰うことも出来なければ、胆の潰れる鬼小僧の手品で、驚かして貰うことも出来なくなった。
鬼小僧はともかくも、お杉はどこへ行ったんだろう?
八千石の大旗本、大久保|主計《かずえ》の養女として、お杉は貰われて行ったのであった。
大久保主計は安祥《あんしょう》旗本、将軍|家斉《いえなり》のお気に入りであった。それが何かの失敗から、最近すっかり不首尾となった。そこで主計はどうがなして、昔の首尾に復《かえ》ろうとした。微行で浅草へ行った時、計らず赤前垂のお杉を見た。
「これは可《い》い物が目つかった。養女として屋敷へ入れ、二三カ月磨いたら、飛び付くような料物《しろもの》になろう。将軍家は好色漢、食指を動かすに相違ない。そこを目掛けて取り入ってやろう」
で、早速家来をやり、養母お粂を説得させた。一生安楽に暮らせる程の、莫大な金をやろうという、大久保主計の申し出を、お粂が断わるはずがない。一も二もなく承知した。
お杉にとっては夢のようで、何が何だか解らなかった。水茶屋の養女から旗本の養女、それも八千石の旗本であった。二万三万の小大名より、内輪はどんなに裕福だかしれない。そこの養女になったので
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