紋付きの羽織を着、白縞の袴を裾長に穿き、悠然とそこに立っていた。千葉周作成政であった。
「む」というと平手造酒は、構えを崩して後へ引いた。と、周作は造酒に代り、田舎者千代千兵衛へ立ち向かった。
田舎者の上段は、なお崩れずに構えられた。それへ向けられた鉄扇は、一見いかにも弱々しく、そうして周作の表情には、鋭さを示す何物もなかった。
静かであり冷ややかであった。しかるに忽然《こつぜん》その顔へ、何かキラリと閃めいた。その時初めて田舎者の金剛不動の構えが崩れ、両足でピョンと背後《うしろ》へ飛んだ。そうしてそこで持ち耐《こら》えようとした。しかしまたもや周作の顔へ、ある感情が閃めいた。とまた千代千兵衛は後へさがった。そうしてそこで持ち耐えようとした。しかし三度目の感情が、周作の顔へ閃めいた時、千代千兵衛の構えは全く崩れ、タ、タ、タ、タ、タ、タと崩砂《なだれ》のように、広い道場を破目板《はめいた》まで、後ろ向きに押されて行った。そうしてピッタリ破目板へ背中をくっつけてしまったのである。
追い詰めて行った周作は、この時初めて「カッ」という、凄じい気合いを一つ掛けたが、それと同時に鉄扇を、グイ
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