は若い女……」
「玻璃窓」平八の科学的探偵
「そうして残ったもう一人は?」一閑斎が側《そば》から聞いた。
「その一人が私《わし》の苦手だ」
「ええお前様の苦手とは?」
「……どうも、こいつは驚いたなあ。……」平八はなおも考え込んだ。
「それじゃもしや鼠小僧が?」
「なに。……いやいや。……まずさよう。……が、一層こういった方がいい。鼠小僧に相違ないと、かつて私《わし》が目星をつけ、あべこべに煮《に》え湯《ゆ》を呑ませられた、ある人間の足跡が、ここにはっきりついているとな。――とにかく順を追って話して見よう。第一番にこの足跡だ。わらじの先から裸指《はだかゆび》が、五本ニョッキリ出ていたと見えて、その指跡がついている。この雪降りに素足《すあし》にわらじ、百姓でなければ人足だ。それがずっと両国の方から、二つずつ四つ規則正しい、隔たりを持ってついている。先に立った足跡は、つま先よりもかがとの方が、深く雪へ踏ん込んでいる。これはかがとへ力を入れた証拠だ。背後《うしろ》の足跡はこれと反対に、つま先が深く雪へはいっている。これはつま先へ力を入れた証拠だ。ところで駕籠舁《かごか》きという者
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