の上へ肘を突き、それへ頭を転がしながら、面白くもないというように、ましらましら[#「ましらましら」に傍点]と上眼《うわめ》を使い、商人の様子を眺めていた。話の仲間へはいろうともしない。
 商人はひょい[#「ひょい」に傍点]と床の間を見たが、そこに置いてある小鼓へ、チラリと視線を走らせると、
「ははあ、あれでございますな。いつもお調べになる小鼓は」
 感心したように声をはずませ、
「よい鼓でございますなあ」

    寂しい寂しい別離の歌

 すると銀之丞は顔を上げたが、「お前のような町人にも、鼓の善悪《よしあし》がわかるかな。いったいどこがよいと思うな?」ちょっと興味を感じたらしく、こうまじめにきいたものである。
 すると商人《あきゅうど》は困ったように、小鬢《こびん》のあたりへ手をやったが、「へいへい、いやもうとんでもないことで、どこがよいのかしこがよいのと、さようなことはわかりませんが、しかし名器と申しますものは、ただ一見致しましただけでも、いうにいわれぬ品位があり、このもしい物でございます」「何んだ詰まらない、それだけか」
 銀之丞はまたもゴロリと寝た。そそられかかったわずかな興
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