な!」「だが鼓はこわれっちゃった」「捕《と》った!」というと平八は、次郎吉の手首をひっ掴んだ。
「見事捕る気か! さあ捕れ捕れ! だが命の恩人だぞ!」
「ううん」というと平八は、とらえた次郎吉の手を放した。
 森然《しん》と更けた夜の館、二人は凝然と突っ立っていた。

 一方こなた平手造酒は、次郎吉と別れるとその足で、出邸の一つへ走って行った。出邸には全く人気がなく、矢狭間《やざま》造りの窓から覗くと、内部は整然と片付けられていた。で、内へはいってみた。ここへ七人立てこもったなら、五十人ぐらいは防げようもしれぬと、そう思われるほど厳重をきわめた砦《とりで》のような構造であったが、しかしどこにも隠れ戸もなければ、地下へ通う穴もなかった。で、造酒はそこを出て、次の出邸へ行ってみた。そこも全く同じであった。構造は厳重ではあったけれど、人気というものがさらになかった。

    お艶と造酒一室に会す

 こうして順次四つの出邸を、平手造酒は訪ね廻った。その結果彼の得たところは、疲労とそうして空虚とであった。親友の観世銀之丞については、全く知ることが出来なかった。
「ふうむ、それでは本邸に、観世
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