いよいよ面白いぞ」そこで例の横歩き、風のように早い歩き方で、グングン東南へ走り下った。吉岡の関所の間道を越え、田中、大文字、東金宿、そこから街道を東北に曲がった。成東、松尾、横芝を経、福岡を過ぎ干潟を過ぎ、東足洗《ひがしあしあらい》から忍阪、飯岡を通って、銚子港、そこの海岸まで来た時には、夕陽が海を色づけていた。と見ると海岸の小高い丘に、岩《いわお》のように厳《いか》めしい、一宇の別荘が立っていたが、そこの石垣にとりわけ大きく、例の十文字が記されてあった。
「ははあ、こいつが魔物だな」そこは商売みち[#「みち」に傍点]によって賢く、次郎吉は鋭い「盗賊眼」で早くもそれと見て取った。あたりを見廻すと人気がなく、波の音ばかりが高く聞こえた。「よし」というと岩の根方に、膝を正して坐ったが、まず風呂敷の包みを解き、取り出したのは少納言の鼓、調べの紐をキュッと締め、肩へかざすとポンと打った。とたんにアッといって飛び上がったのは、思いもよらず鼓の音が、素晴らしく高鳴りをしたからであった。「こんな筈はない。どうしたんだろう?」そこでもう一度坐り直し、ポンポンポンと続け打ってみた。と、その音は依然として
前へ
次へ
全324ページ中281ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング