月が船縁《ふなべり》を照らしていた。海は真珠色に煙っていた。その海上を唄の声が、どこまでもどこまでも響いて行った。

 ある時は千三屋、またある時は鼠小僧、そうして今は鼓賊たるところの、和泉屋次郎吉はこの日頃、ひどく退屈でならなかった。「チビチビ江戸の金を盗んだところで、それがどうなるものでもない。どうかしてドカ儲けをしたいものだ」こんなことを思うようになった。
「気が変っていいかもしれない、ひとつ旅へでも出てみよう」……で鼓を風呂敷へ包み、そいつをヒョイと首っ玉へ結び、紺の腹掛けに紺の股引き、その上へ唐棧の布子を着、茅場町の自宅をフラリと出た。「東海道は歩きあきた、日光街道と洒落のめすか。いや、それより千葉へ行こう。うん、そうだ、千葉がいい。酒屋醤油屋の大家ばかりが、ふんだんに並んでいるあの町は、金持ちで鼻を突きそうだ。千葉へ行ってあばれ廻ってやろう。しかし海路は平凡だ。陸地《くがじ》を辿って行くことにしよう」

    腹へ滲みわたる鼓の音

 亀戸《かめいど》から市川へ出、八幡を過ぎ船橋へあらわれ、津田沼から幕張を経、検見川《けみがわ》の宿まで来た時であったが、茶屋へ休んで一杯ひ
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