それから間もなく起こったのが、鼓泥棒の鼓賊なんだもの……」
「ふん、それがどうしたんだい?」
次郎吉はギロリと眼をむいた。
「だから気が気でないんだよ」
その時チョンチョンと二丁が鳴った。
「おやもう幕が開くんだよ。それじゃ妾は行かなけりゃならない」
「では俺もおいとまとしよう」
次郎吉はポンと立ち上がった。
「オイ、はねたら飲みに行こうぜ」
「ええ」
というと部屋を出た。
チェッと次郎吉は舌打ちをしたが、
「あぶねえものだ、火がつきそうだ」
ちょっとあたりを見廻してから、部屋を出ると廊下へかかり、裏梯子《うらばしご》を下りると裏口から、雪のたまっている往来へ出た。
プーッと風が吹いて来た。
「寒い寒い、ヤケに寒い」
チンと一つ鼻をかみ、
「さあて、どっちへ行ったものかな」
あてなしにブラブラ歩き出した。がその眼には油断がない。絶えず前後へ気をくばっていた。
バッタリ遭ったは河内山
「おお和泉屋、和泉屋ではないか!」
こう背後《うしろ》から呼ぶ者があるので、次郎吉はヒョイと振り返って見た。剃り立て頭に頭巾をかむり、無地の衣裳にお納戸色《なんどいろ》の十徳
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