平八は駕籠へ乗った。
「日本橋だ、河岸へやれ」
下りたところに廻船問屋、加賀屋というのが立っていた。
「許せよ」
と平八はズイとはいった。
「これはおいでなさいませ。ええ、何か廻船のご用で?」
店の者は揉み手をした。
「いやちょっと主人に逢いたい」
「どんなご用でございましょう?」迂散《うさん》らしく眼をひそめた。
「逢えば解る、主人にそういえ」
「失礼ながらあなた様は?」
「南町奉行所吟味与力、石本勘十郎と申す者だ」
「へーい」
というと二、三人、奥へバタバタと駈け込んだ。それほどまでに吟味与力は、権勢のあったものである。
「どうぞお通りくださりますよう」
「そうか」というと郡上平八はズイと奥の間へ通って行った。
廻船問屋を歴訪す
茶と莨盆《たばこぼん》と菓子が出て、それから主人が現われた。
額をピッタリ畳へつけ、
「当家主人、卯三郎《うさぶろう》、お見知り置かれくだされますよう」
「早速ながら訊くことがある」
「は、は、何事でござりましょうか?」
「今月初旬、七里ヶ浜沖で、そちの持ち船|琴平丸《こんぴらまる》、賊難に遭ったということだな。書き上げによって承知
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