そうではございませんか」
 やがて行燈がともされた。茫《ぼう》っと立つ黄色い灯影《ほかげ》に、煤びた天井が隈取《くまど》られた。
 と、女房は仏壇へ行った。
 カチカチという切り火の音。……
 ここへも燈明が点《とも》された。
「南無幽霊頓証菩提《なむゆうれいとんしょうぼだい》。南無幽霊頓証菩提」
 ブルッと浪人は身顫いをした。
「陰気な声だな。俺は嫌いだ」
「南無幽霊頓証菩提」
「その声を聞くと身が縮《すく》む」
「どうぞどうぞお許しください。どうぞどうぞお許しください」
「止めてくれ! 止めてくれ!」
「妾はこんなに懺悔しています。どうぞ怨んでくださいますな」
 ザワザワと竹叢《たけむら》の揺れる音。……
 どうやら夜風が出たらしい。

    悪人同志の夫婦仲

「俺の心は弱くなった。それというのもあの晩からだ。……憎い奴は平手造酒だ!」
 なお女房は祈っていた。
 ザワザワと竹叢の揺れる音。……
 次第に夜が更けて行った。
「天下の金は俺の物だ。斬り取り強盗武士の習い。昔の俺はそうだった。……両国橋の橋詰めで、あいつに河へ追い込まれてからは、何彼《なにか》につけて怖じ気がつき、
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