浪人が炉の前で、内職の楊枝《ようじ》を削っていた。あたりは寂然《しん》と静かであった。
「少し疲労《つか》れた。……眼が痛い。……」
茫然と何かを見詰め出した。
「ああきょうも日が暮れる」
また内職に取りかかった。
しずかであった。
物さびしい。
ポク、ポク、ポク、と、木魚の音。……
夕暮れがヒタヒタと逼って来た。
隣りの部屋に女房がいた。昔はさこそと思われる、今も美しい病妻であった。これも内職の仕立て物――賃仕事にいそしんでいた。
ふと女房は手を止めた。そうして凝然と見詰め出した。あてのないものを見詰めるのであった。……が、またうつむいて針を運んだ。
サラサラと雪のしずれる音。すっかり夕陽が消えてしまった。ヒタヒタと闇が逼って来た。
浪人は一つ欠伸《あくび》をした。それから内職を片付け出した。
と、傍らの本を取り、物憂そうに読み出した。あたりは灰色の黄昏《たそがれ》であった。
「何をお読みでございます?」
「うん」といったが元気がない。「珍らしくもない、武鑑《ぶかん》だよ」
二人はそれっきり黙ってしまった。
と、浪人が誰にともつかず、
「どこぞへ主取りでもし
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