であったことは疑いない。
「お前、聞いたろうな、あの唄を」家斉は早速いい出した。
「お前あいつをどう思うな?」
「厄介《やっかい》な唄でございますな」碩翁はこうはいったものの、厄介らしい様子もない。
「十数年前にはやった唄だ」
「そんな噂でございますな」
「海賊赤格子をうたった唄だ」
「ははあさようでございますかな」碩翁はちゃんと知っているくせに、知らないような様子をした。これが老獪なところであった。家斉をしていわせようとするのだ。
「そうだよ赤格子を唄った唄だよ。あの海賊めがばっこ[#「ばっこ」に傍点]した、十数年前にはやった唄だ」
「海賊の上に邪教徒だったそうで」
「うん、そうだ、吉利支丹だったよ」
「ただし噂によりますと、なかなか大豪《だいごう》の人間だったそうで」
「それに随分と学問もあった。吉利支丹的の学問がな」
「つまり魔法でございますかな」
「いいや、違う、その反対だ」
「反対というと? ハテ何んでしょうな?」
「実際的の学問なのさ。うん、そうだ科学とかいった」
「科学? 科学? こいつ解らないぞ」
「建築術なんかうまかったそうだ」
「建築術? これは解る」
「それから色
前へ 次へ
全324ページ中178ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング