全力を挙げて、邸のために尽くしたものであった。その時以来はそれとはあべこべに、自分をすっかり邸から放し、第三者として観察することにした。
 するとはたして心得ぬことが、続々として起こって来た。例えば深夜こっそりと、邸内多数の人間が、象ヶ鼻の方へ出て行ったり、ある夜の如きは燈火を点けない、大型の一隻の帆船が、どこからともなく現われて来て、象ヶ鼻の真下の小さい入江へ、こっそり碇《いかり》を下ろしたりした。
「怪しい怪しい」
 と、銀之丞は、いよいよその眼をそばだてた。
 しかしこれらはよい方であった。そのうちとうとう銀之丞は、恐ろしいことを発見した。
 というのは他でもない。四つの出邸を繋いでいる廊下が、十字形をなしていることであった。
「おおこれは十字架の形だ!」
 つづいて連想されたのは、ご禁制|吉利支丹《キリシタン》のことであった。
「ううむ、それではこの邸は、邪教の巣窟ではあるまいか」
 さすがの彼もゾッとした。
「これは大変だ。逃げなければならない」
 しかし逃げることは出来なかった。
 出邸にこもった数十人の者が、夜も昼も警戒していた。
「ああこれこそ自縄自縛だ。出邸に人数を配
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