逼《せま》って来た。警戒警戒、警戒しなければならない」
九郎右衛門はこういった。しかしその後は変ったこともなく、またも無為に日が経った。と、またもや一通の手紙が邸の内に落ちていた。
「観世銀之丞よ。早く立ち去れ」
こうその手紙には書いてあった。
これには銀之丞も仰天したが、しかし恐れはしなかった。
「うん、面白い、張り合いがある」かえってこんなように思ったものであった。
変な様子をした二、三人の者が、邸の周囲をさまよったり、夜陰堀の中へ石を投げたり、突然大勢の笑い声が、明け方の夢を驚かしたり、そういったような細々しい変事は、幾度となく起こっては消えた。
だが攻めては来なかった。で、邸内の人々は、次第にそれに慣れて来た。だんだん油断をするようになった。
お艶とそうして銀之丞との恋は、この間にも進歩した。
ところで二人のその恋を、快く思わない人間が、邸の内に一人あった。醜い例の丑松で、彼は内々蔭へまわっては、二人の悪口をいうらしかった。しかし恋する二人にとっては、そんなことは苦にもならず、問題にしようともしなかった。
こうしてまた日が経って、やがて初雪が降るようになった。
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