な土塀、土塀の内側《うちがわ》の茂った喬木、昼間見てさえなかの様子は、見る事が出来ないといわれていた。
夜はかなり更けていた。堀の水は鉛色に煙り、そとへ突き出した木々の枝葉で、土塀のあちこちには蔭影《かげ》がつき、風が吹くたびにそれが揺《ゆ》れた。前と左右は物寂しい荒野で、そうして背後《うしろ》は岩畳《いわだたみ》を隔てて、海に続いているらしい。
人っ子一人通っていない。市《まち》の燈火《ともしび》は見えていたが、ここからは遙かに隔たっていた。別荘には一点の火光もなく、人のけはいさえしなかった。
それは別荘というよりも、荒野の中の一つ家《や》であり、わすれ去られた古砦であり、人の住居《すまい》というよりも、死の古館《ふるやかた》といった方が、ふさわしいように思われた。すでに刎ね橋はひき上げられていた。
「何という寂しい構えだろう」
呟きながら銀之丞は、堀に沿って右手へ廻った。すると意外にも眼の前に、刎ね橋が一筋かかっていた。そこは別荘の側面で、土塀には小門が作られてあったが、それへ通ずる刎ね橋であった。こういう場合おおかたの人は好奇心に捉われるものであった、で、彼も好奇心に駆ら
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