戯《いたずら》をするのだろう?」
 考えてみれば気味が悪かった。とはいえ大剛《たいごう》の彼にとっては、恐怖の種とはなりそうもなかった。
 それはとにかく、銀之丞は、駕籠の中に見た女の俤《おもかげ》を、忘れることが出来なかった。
「女は確かに娘らしい。あの『主知らずの別荘」の、家族の一人に相違ない。それも決して女中などではなく、丑松の話したお嬢さんでもあろう」
 女色《じょしょく》に淡い彼ではあったが、不思議と心をそそられた。
 二度目の暗号を渡された日の、その翌晩のことであったが、彼はフラリと宿を出ると、別荘の方へ足を向けた。それは月影の美しい晩で、そぞろあるきには持って来いであった。少しあるくと町の外《はず》れで、すぐに耕地となっていた。その耕地を左右に見て、一本の野良道を先へ進んだ。土橋を渡るともう荒野で、地層は荒々しい岩石であったが、これは海岸に近いからであった。そういえば波の音がした。
 彼はズンズンあるいて行った。間もなく別荘の前へ出た。
 廻れば五町はたっぷりあろうか、そういう広大な地所の中に、別荘は寂然《せきぜん》と立っていた。三間巾の海水堀、高い厚い巌畳《がんじょう》
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