「ヨイショヨイショ! ヨイショヨイショ!」
 ふたたびかこ[#「かこ」に傍点]の声は盛り返した。その声々に抽《ぬき》んでて、謡の声はなおつづいた。
 船が銚子へ着いたのは、その翌日のことであった。

    「主知らずの別荘」の別荘番

「オイオイ若いの。オイ若いの」
※[#歌記号、1−3−28]かくばかり経高く見ゆる世の中に、羨ましくも澄む月の、出汐をいざや汲もうよ……
「オイオイ若いの。オイ若いの」
※[#歌記号、1−3−28]影はずかしき我が姿、忍び車を引く汐の……
「うなっては困る。うなっては困る」
「誰もうなってはいないではないか」
「お前の事だ。うなっては困る」
「おれは何もうなってはいない」
「今までうなっていたじゃないか」
※[#歌記号、1−3−28]おもしろや、馴れても須磨の夕まぐれ、あま[#「あま」に傍点]の呼び声かすかにて……
「あれ、いけねえ、またうなり出した」
※[#歌記号、1−3−28]沖に小さき漁《いさ》り舟の、影|幽《かす》かなる月の顔……
「やりきれねえなあ、うなっていやがら」
※[#歌記号、1−3−28]仮りの姿や友千鳥、野分《のわき》汐風いずれ
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