あるな!」
嵐は益※[#二の字点、1−2−22]吹き募り、雨はいよいよ量を増した。所は名に負う九十九里ヶ浜、日本近海での難場であった。四辺《あたり》は暗く浪は黒く、時々白いものの閃めくのは、砕けた浪の穂頭《ほがしら》であった。
「ヨイショヨイショ! ヨイショヨイショ!」
かこ[#「かこ」に傍点]どもの呼ぶ掛け声は、益※[#二の字点、1−2−22]勇敢に響き渡った。しかし人力には限りがあり、自然の暴力は無限であった。
かこ[#「かこ」に傍点]は次第に弱って来た。船がグルグルと廻り出した。
「もういけねえ! もういけねえ!」
悲鳴の声が聞こえて来た。
真っ黒の大浪がうねりをなし、小山のように寄せたかと思うと、船はキリキリと舞い上がった。
「助けてくれえ!」
と叫ぶのは、胴の間にいる乗客達であった。
と、この時、朗々たる、謡《うたい》の声が聞こえて来た。
神か鬼神かこの中にあって、悠々と謡をうたうとは! 暴風暴雨を貫いて、その声は鮮かに聞こえ渡った。
「誰だ誰だ謡をうたうのは!」
「偉《えれ》えお方だ! 偉えお方だ!」
「偉えお方が乗っておいでになる! 船は助かるぞ助かるぞ!
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