たものである。
すると銀之丞は吹き出してしまった。それから皮肉にこういった。
「貴様、実に悪い奴だ。鼓を盗んだのは貴様だろう?」「いえ、拝借しましたので」「永い拝借があるものだな」「長期拝借という奴で」「黙って持って行けば泥棒だ」「だからお返し致しました」
「ははあ、湯島の境内で、おれにぶつかったのは貴様であったか?」「その時お返し致しました」
千三屋はケロリとした。
捨てるによって拾うがよい
「是非欲しいというのなら、譲ってやらないものでもないが、お前のような旅商人に、鼓が何んの必要があるな?」銀之丞は不思議そうに訊いた。
「是非欲しいのでございますよ」千三屋は熱心であった。「命掛けで欲しいので」
「いよいよもっておかしいな。この鼓で何をする気だ?」
「ちょっとそいつは申されませんなあ」当惑をした様子であった。
「いえないものなら聞きたくもない」銀之丞はそっけなく「その代り鼓も譲ることは出来ぬ」潜《くぐ》り戸を開けてはいろうとした。
「おっとおっと観世様、そいつアどうも困りましたなあ」「ではわけを話すがいい」「ようがす。思い切って話しましょう」「おお話すか、では聞いて
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