」
「それは残念、ご免くだされ」
いい捨て向こうへ駆け抜けようとしたが、幽かな常夜燈の灯に照らし、銀之丞の持っている鼓を見ると、飛燕のように飛び返って来た。
銀之丞の手首をひっ掴むと、「曲者|捕《と》った……鼓! 鼓!」
「黙れ!」と銀之丞は一喝した。「鼓がどうした? 拙者の鼓だ!」
「何んの鼓賊め! その手には乗らぬ! 神妙に致せ! 逃《の》がしはせぬぞ!」
「鼓賊とは何んだ! おおたわけ! 拙者は観世銀之丞、柳営おとめ[#「おとめ」に傍点]芸の家門だぞ!」
これを聞くと老武士は、にわかに後へ下がったが、
「ナニ観世銀之丞とな。誠でござるかな、どれお顔を……あっ、いかにも銀之丞殿だ!」
「掛《か》け値《ね》はござらぬ。銀之丞でござる。……ところで貴殿はどなたでござるな?」
河中へ飛び込んだその早業《はやわざ》
「拙者は郡上平八でござる」
「おお玻璃窓の平八老か」
「それに致してもその鼓は?」
「家宝少納言の鼓でござる」
「では、ご紛失なされたという?」
「偶然手もとへ戻りましてな」
「ははあ」といったが平八は、深い絶望に墜落《おちい》った。「うむ残念、鼓賊めに、また
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