、それから目差す鉢伏山だ。
 鉢伏山の中腹で一同割籠をひらくことになった。見渡す限りの満山の錦、嵐が一度《ひとたび》颯《さっ》と渡るや、それが一度に起き上がり億万の小判でも振るうかのように閃々燦々《せんせんさんさん》と揺れ立つ様はなんとも云われない風情《ふぜい》である。
「よろしゅうござるな」
「いや絶景」
 と、弓之進も北山も満足しながら瓢の酒を汲み合った。
 その時突然供の者どもが一度にワッと立ち上がった。
「熊! 熊!」と騒ぎ立つ。
「何、熊?」と弓之進は、若党の指差す方角を見ると横手の谷の底に当たって真っ黒の物が蠢《うごめ》いている。いかさま熊に相違ない。あっ[#「あっ」に傍点]と見るまに大熊はこっちを目掛けて駈け上がって来る。
「金吾、弓を!」と弓之進は若党を呼んで弓を取った。名に負う鏡弓之進は、高遠《たかとお》の城主三万三千石内藤|駿河守《するがのかみ》の家老の一人、弓は雪河流《せっかりゅう》の印可《いんか》であるが、小中黒《こなかぐろ》の矢をガッチリとつがえキリキリキリと引き絞ったとたん、
「待った待った射っちゃいけねえ!」
 鋭い声が聞こえて来た。
 何者とばかり放す手
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